夫婦の話し|夜空に揚げパン

何気なく買った小さなロールパンを、揚げパンにしていただいた夜のこと。

つい最近も揚げパンを作って食べたばかりで、栄養のことを考えると、しばらくは作らないつもりでいました。けれど前日の夜、私は急に体調を崩してしまったのです。そんな私を、夫は献身的に看病してくれました。その姿が心に残り、どうしてもお礼をしたくなって、大好評だった揚げパンをもう一度作ることにしました。

夜の出来事は、今でも少し不思議な感覚とともに思い出されます。
なんだか体が辛いな、と思った次の瞬間、渦の中に吸い込まれたように、急激に体調が悪くなりました。

看病してくれた夜

「どうしたの~!?」という、まるでムンクの叫びのような声が遠くから聞こえてきて、気がつくと私は、暖かくてふかふかなベッドで横になっていました。目を開けると、しゃがみ込んでこちらを見ている夫と目が合いました。

汗と涙で滲んだ夫の表情を見て「ああ、しばらく看病してくれていたんだ」と気づきました。同時に、心配をかけてしまったな、という思いが胸に広がりました。

「ありがとう」って伝えたい

だからこそ「ありがとう」を形にして伝えたかったのです。
冷蔵庫にあった小さなロールパンで揚げパンを作り、出来立ての温もりと一緒に、言葉でお礼を伝えようと思いました。

揚げパンをどの器にのせようかと考えた時、結婚記念日に記念品として買った「星空」という名前の器が浮かびました。今夜はこの器に盛り付けてみよう。砂糖が星のように見えたら素敵だな、喜んでくれるだろうか。そんなことを思いながら、キッチンに立ちました。

夜空に揚げパンが現れる

冷蔵庫から出したロールパンをオーブンで温め、少量の米油を熱したフライパンで、二分ほど揚げ焼きにします。仕上げに砂糖とシナモンをまぶして完成。
「星空」の器に盛り付けると、砂糖は儚く、美しく煌めいて見えました。夜空に浮かぶ揚げパンは、どこか蝶のようにも見えました。

その揚げパンを大切そうに眺め、嬉しそうに写真を撮る夫の姿に、胸がジンとしました。
「ずっとずっと一緒だよ」と、昨夜かけてくれた言葉を思い出し、涙が出そうになりましたが、私は明るく振る舞いました。

「雅な揚げパンだね」
「七夕みたいだね。七夕にもこれ食べたいな」
「美味しっ! グッドグッド!」
「揚げパン作るの、本当に上手だね」

夫は表情豊かに、たくさんの感想を伝えてくれました。
ふたりして口のまわりに砂糖をいっぱい付けながら笑い合い、あっという間に完食しました。こんな些細な日常が、こんなにも幸せなのだと、しみじみと感じた夜でした。

本当にありがとう。
あなたがいてくれたから、私はこんなにも早く元気になれました。

きっと、ずっと覚えていると思います。
私たちの夜空に、揚げパンがあった日のことを。

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